まこっちゃんが素顔で映画出演⁉︎ 超有名俳優がノーギャラでも出たい作品に監督からの出演依頼! その役とは?

10:番外編・インテリ失業者

 2002年に公開された篠田正浩監督の引退作『スパイ・ゾルゲ』という映画があります。『瀬戸内少年野球団』や『舞姫』『写楽』『梟の城』を撮った監督さんの引退作だけあって、真田広之さんや宮沢りえさんらがノーギャラでも出たいと希望したにもかかわらず、「あなたに合う役がないから」という理由で断られたという逸話のある作品がこの『スパイ・ゾルゲ』でした。

 舞台は第二次世界大戦前夜の時代、当時の日本では大卒者がとても珍しく、大学を卒業するなんてよほどのインテリか共産主義者とみなされていた頃で、大卒者はなかなか職に就くことができなかったようです。大卒の失業者という当時の写真が資料として残っていて、篠田監督はその人物を映画の中で再現したいと考えていました。ところがその役を演じる俳優のキャスティングに難航し、見つからないままそのシーンの撮影前日になってしまったのです。で、「誰かこんなやつ知らないか?」と資料写真を撮影に加わっているスタッフ全員に見せたところ、たまたままこっちゃんのことを知ってるスタッフさんがいて、その写真とまこっちゃんの素顔がよく似ていたので監督さんに写真を見せたところ、「何をやってる人なんだ?」と聞いた監督さんが「何とかこの人に明日の撮影に来てもらえないか」という話になり、撮影現場から直接まこっちゃんに連絡が来たのでした。スタッフからの「明日撮影に来て欲しいんですけど」という連絡に当然「えっ⁉︎ 明日ですか?」となったのですが、何よりも真田広之さんや宮沢りえさんらが出演を断られた映画です。こちらから出してくれってお願いしても絶対に出してはもらえないような作品に、まさかの監督さんからの依頼です。しかも巨匠です。こちらは知ってても向こうはこちらのことを知らなかったわけだから、ふつうならまこっちゃんに来るような話ではないのです。だからこちらから断る理由なんて全くありません。条件はその時代の髪型に髪を切ること。芥川龍之介みたいなザンギリだったので嫌だったけれど、例えば指を切ってくれって言われたら指はもう生えてこないので当然お断りしますが、髪は切っても取り敢えず何ヶ月か我慢すればまた伸びます。こんな機会は滅多にないので全てを了承し、翌日まこっちゃんは撮影所に向かったのでした。

 メイクさんにメイクをしてもらい衣裳さんに衣裳を着せてもらいスタジオに入る。まずは監督さんにご挨拶。「急なお願いで無理をさせてしまって申し訳ありません」と優しい言葉をかけてくださったのに対してまこっちゃんはただ恐縮するばかり。

 で、いよいよ撮影がスタート。正面からと切り返しの2カット。まこっちゃんの台詞はないのだけれど、主演の本木雅弘さんとMiaYooさんがこの人物を見て共産主義者についての会話をするというシーンなのできちんとした存在感がなくては成り立たない。監督さんからは「ただ立ってるだけなんだけど、インテリのプライドと失業者の悲哀を両方同時に表現して欲しい」という、おっとかなりハードル高いぞ的なオーダーを頂戴しました。ただ、まこっちゃんとしては大監督に演技指導してもらえる滅多にない機会にむしろ大いに期待していたのです。資料写真を見て、膝の抜け具合や肩の角度、背中の感じなど、細部にまで気持ちを込めてその人物の佇まいを作り、またその人物の周りにプライドと悲哀の雰囲気を空間的に醸し出すべく、その時自分にできる限りの全てを込めて取り組みました。結果、二つのカットはどちらも1テイクで終了。演技指導もダメ出しもないまま、30分もしないうちにあっけなく出番は終わってしまいました。監督さんからは「急なお願いだったのによくやってくださいました」とポツリとひと言だけ戴いてその日まこっちゃんは帰宅したのです。

 で、後日談。

 映画完成間近になった頃、篠田監督の会社からエンドクレジットに名前を入れて良いかどうかの確認連絡が来ました。これも断る理由がありません。だって巨匠監督の引退作なんだから、名前なんて可能なら二つでも三つでも出してもらってもいいぐらいなのですが、ゴダイゴだって『Beautiful name』で「ひとりずつひとつ♪」と歌ってるように残念ながら名前はひとりにひとつずつなのです。

 素顔で出演したのでクレジットも本名で出すことにしました。

 錚々たる役者さんたちが出演されていたので、そういったメインの出演者はご存知のように1列ずつのところに名前が出ます。で、役者のランクが下がると2列に名前が並んだり、3列、4列になったり、エキストラさんだとまとめて事務所の会社名に一括されてもう個人名は出なくなります。まぁ、台詞もなく立ってるだけの役だったので、予想では名前が出るのは3列4列ぐらいのところになるだろうけど、大作に名前が出るだけでも嬉しいものです。

 2ヶ月後、まこっちゃんの元に試写会のお知らせが届きましたが、その日は残念ながら都合がつかず、まこっちゃんが作品を観たのは公開されてから、映画館で一般客としてでした。3時間もある大作の中で、自分が出てるシーンはあっけないもので1分もありませんでした。ところが、です。ラストのクレジットを見てまこっちゃんは驚いたのなんの。なんと1列表記のところに自分の名前があったのです。しかもちょっとあとには佐藤慶さんのお名前が並んでいるような位置でした。まこっちゃんはもうビックリ! 自分が出てるシーンよりもクレジットの名前の位置の方が箔があるぐらいです! 篠田監督に直接確認することはできないけれど、聞いたところによると、かなり篠田監督の思い入れの強い役だったようで、キャスティングが難航してなかなか決まらなかったのもそれが理由だったらしいです。どうやらまこっちゃんはかなり大きなお勤めを無事に果たしたということのようでした。

 この話は、身体の置き方や空間をどう創るか、という点において、その時に全面的に発揮したのは紛れもなくクラウンとしての技量だったのは間違いないので、ここに番外編としてとりあげることにしました。

 この映画に出演したことは、まこっちゃんの2大自慢話のうちのひとつです。

 なんせクレジットに名前までしっかりと刻まれているので、まこっちゃんは初回限定版DVDも買ってしまいました。メイキングやインタビューが収録されている特典の方にもなぜかインテリ失業者のシーンがかなり使われていました。この撮影の翌日にパスポートの申請をしたので、パスポートは10年間この髪型の写真でした。

 ちなみに、まこっちゃん2大自慢話のもうひとつはシンディ・ローパーに絵を褒められたことなのですが、それはクラウンの仕事とは全く関係ないので、いずれ別の機会にでも。

 そのように、思いがけない映画出演の機会に恵まれたりすることもありましたが、時代の波はイベント業界をさらに大きく変化させました。クラウンたちも変化に対応できず消えていった人もいますが、少数ながら生き残った人たちがいます。それはうまくブームに乗った人たちです。しかしまこっちゃんはブームに乗ることはありませんでした。

 まこっちゃんはいったいどうやって新時代の変化に対応したのでしょうか?

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One thought on “10:番外編・インテリ失業者

  1.  巨匠と言われた映画監督にも認められた演技はクラウンを続けてきたからこそ。そんなまこっちゃんのクラウン・ショーを、あなたのために出張公演いたしますので、ぜひご依頼ください。
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